実例から理解する「企業ブランディング」の役割
2017.09.19

CONTENS
ブランディングは「ブランド」から派生した言葉
経済関係の雑誌やニュースでよく目にする「ブランディング」という単語。マーケティングや企業戦略に携わる人間にとっては身近な単語のはずなのに、正しく理解をしているか自信がない方も多いはず。
ブランディングのもととなっているのは、商品やメーカーを他社と分けるために使う「ブランド」という言葉です。そして、企業やブランドの持つ魅力を世間に向けて発信し、ファンを獲得する策略のことを企業ブランディングと呼びます。
今回はファッション業界の中からUNIQLOとGU、そして金子眼鏡を例に挙げて、企業ブランディングの役割やメリットについて紹介します。
大企業UNIQLOのブランディング
UNIQLOの商品と企業戦略
ファーストリテイリングを代表するブランドUNIQLO。購買層はファミリーや年配の方で、「あらゆる人がよいカジュアルを着られるようにする」というブランディングのもとに事業を展開しています。
デザインに関しては流行を追求せず、ポロシャツやジーパンなどスタンダードな商品が多く、カラー展開も毎年同じようなパターンの色が店頭に並びます。企業コラボTシャツやヒートテックなど、機能性や話題性を重視したアイテムも有名です。
UNIQLOで取りこぼす購買層を補う新戦略
UNIQLOは老若男女問わず幅広い層に向けて事業展開していますが、既存のブランディングでは取りこぼす購買層がいることに気づきました。最新の流行に敏感な学生など若い世代や、育児中でもオシャレしたいという若い主婦層です。
そこで、UNIQLOはあえて将来ライバルになりうるGUという新ブランドを、子会社化する形で立ち上げました。
UNIQLOから生まれたGUというブランド
苦戦するGU
GUは「ファッションをもっと自由に、いま欲しいスタイルを驚きの価格ですべての人へ届けたい」というブランディングのもと、ファーストリテイリングの子会社であるGOVリテイリングが2006年に立ち上げました。
購買層はもともと学生や若い年代でしたが、商品の価格設定が安いせいか、「UNIQLOより質の低い粗悪品ばかりなのでは」という悪いイメージが先行し、立ち上げ当初は苦戦していたそうです。
GUの斬新なCMブランディング
女優の波留・山本美月・香椎由宇を起用した、世界三大美女(クレオパトラ・楊貴妃・ヘレネ)が女子会をするという奇抜なCM。俳優の高良健吾が道端でギターを弾き、「プレイバックpart2」を熱唱するCM。そして、彼らがまとうGUだとは思えない流行の服。
中高生に人気のある若手モデルや俳優・女優を起用し、安価な服を価格以上に魅せるCMは当時大きな話題となりました。個性的で思い切ったGUのCM戦略は、市場に「UNIQLOとGUは似て非なるもの」というイメージを植え付け、差別化することに成功しました。
主婦層を取り込んだGUの流行を追求する販売戦略
GUでは、「最新の流行アイテムを短期間で販売・回転させる」という販売戦略を実施し、店を訪れるユーザーに常に新鮮味を与えています。この流行を追求するブランドイメージが、オシャレに敏感な主婦層にヒットしました。
そもそも主婦層はオシャレしたくても、家計を考慮すると自分一人の洋服代に予算を充てることは難しい方が多いです。そんな家計が厳しい主婦層、特に育児中の若い主婦に、最新の流行を取り入れつつもチープに見えないGUのアイテムは重宝されています。
最近の主婦向け雑誌では「GUを使ったおしゃれママの1週間コーディネート」といったファッション企画も目につきます。また、「GU ママコーデ」というキーワードが検索予測にも出るほど、主婦の間ではGUが話題になっています。
GUのギフト戦略によるユーザー層の拡大
GUのアプリ内では、父の日や母の日、クリスマスなどイベント時期に合わせて、アイテムを選りすぐってギフトとして提案しています。GUユーザーの若年層が両親や家族にプレゼントを贈り、贈られた側は「GUの製品はオシャレで品質も悪くない」と好印象をもちます。
結果、若年層のみならず親世代や祖父祖母世代まで、幅広い層がGUの服を手に取る機会が増えるようになりました。
「ファッションをもっと自由に、いま欲しいスタイルを驚きの価格ですべての人へ届けたい」という企業ブランディングが、ユーザー層の拡大と利益向上という二つの役割を果たしたといえます。
中小企業こそ企業ブランディングが不可欠
次に中小企業の実例を参考に、企業ブランディングについて深く掘り下げてみましょう。
日本では国内企業のおよそ9割が中小企業といわれています。中小企業における企業ブランディングのメリットとは、競合他社との不毛な値下げ合戦に巻き込まれることなく、自分たちのファンを獲得できるという点です。
少ない予算内で企業ブランディングを成功させれば、企業規模は関係なく商品自体の価値やブランドイメージで大企業や競合他社と勝負できます。
また、大企業では多額の広告予算を使って不特定多数に情報を発信できますが、中小企業の広告予算は限られているため、広告媒体、メディア、手法、デザインなど工夫することが重要です。
企業ブランディングを成功させた中小企業「金子眼鏡」
金子眼鏡の企業ブランディングとは
眼鏡の製造において、国内シェア1位の福井県。中でも眼鏡造りの聖地、鯖江市を代表するフレームメーカー「金子眼鏡」。鯖江市の眼鏡職人による一貫した手作りフレームは、眼鏡ユーザーの間で最高の付け心地と評判です。
注目したいのは、質の高い技術力はもちろんのこと、ある一定の人々に感動を与えるために、しっかりとしたブランディングを貫き通している点です。
フレーム製造の技術力に自信を持つ金子眼鏡のフレームは平均3万円。高品質に見合った価格かもしれませんが、高価格な商品だけが先行すれば「値段の高い眼鏡メーカー」というイメージで終わってしまいます。
そうならないようにするためにも、「上質で思いが込められた手作りのもの」を求める人々に狙いを定めた、ち密なブランディングを行っているのです。
金子眼鏡の企業ブランディングの具体的戦略
1958年創業の老舗ながらも柔軟な発想で、本物志向のセレクトショップやアパレルブランドとのコラボレーション企画を打っている金子眼鏡。雑誌掲載は、質の高いものを求める読者が多いファッション誌「nice things」などに掲載し、CMや広告を乱発することはありません。
購入した眼鏡を木箱に入れた高級感あふれるラッピングや、店頭の店員の知識の豊富さも評価されています。シンプルながらも遊び心を感じるレトロなデザインを、頑固一徹な職人が手掛けているというギャップも購買意欲を掻き立てるポイントでしょう。
金子眼鏡の確固たるブランディングは、「金子眼鏡の眼鏡を持つことが幸せの象徴」という満足感を与え、「金子眼鏡の眼鏡を一生使い続けたい」という深い愛情を持ったファンを獲得しています。
正確な企業ブランディングが生み出すメリットとは
以上、GUと金子眼鏡のブランディング成功例を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
大企業と中小企業ではブランディングの手法に多少の差はありますが、共通するのは狙ったターゲット層に対して、ブランドイメージをいかに効果的に伝えるかということだといえます。
また、企業ブランディングを行うメリットとは、ブランディングにより得たファンが定着することで、企業側が安定した集客や売り上げを見込める点です。企業ブランディングの設定の仕方次第で、企業のイメージはもちろん、利益や成長度合いに変化が生まれます。
まずは企業ブランディングを綿密に練り、商品やブランドのイメージを組み立て、企業ブランディングが最後までぶれないように、経営戦略を実行することが重要です。