ECサイトの事例に見る成功のカギとコツはサイトのメディア化
2020.07.06

ECサイトの成功事例を列挙するサイトは少なくありません。しかし、その中で多くの文字数を割いて紹介されるような最初から資金力があり、サイトの構築や宣伝などに対し大きな資金を投入して展開するようなサイトは資料として参考にしづらいです。
事例から参考にするというのであれば、それぞれの事例をもっと細かくのぞいていく必要があります。資本力以外の部分で存在感を発揮してきたEC事業者の多くはメディア化に取組み、それが成功しているサイトが上位にならんでいるのに気づくはずです。
これはメディア化が集客力と結びついていることがポイントです。集客力はそれだけ売上という結果に結びつきやすいということに他なりません。ここではECサイトの事例とあわせてメディア化を通したブランディング施策を解説します。
CONTENS
集客力はEC成功のもと
ECサイトを成功に導くためには集客力をサイト自体が持たなければいけません。そのために必要なのは、消費者や将来的な見込み客の関心を引き続けることです。すぐに買い物の必要がなくてもサイトを見に来る理由があれば、もし「購入しよう」という段階になればそのオンラインショップから購入してくれる可能性が高くなります。こうした部分は構築や運営のシステムだけでカバーできる問題ではありません。
もし、ECサイトが商品販売の場所としてだけでなく、情報メディアとして機能し、なんらかの情報の取得先として認知されていれば集客はより容易になっていきます。「○○のことについて知りたい」となればすぐに思い出されて活用されるようになっていくメリットは計り知れません。
このようなサイトのメディア化はSEO的な視点でももちろん有利です。それだけでなく何らかの情報が得られるしっかりとしたコンテンツを提供していくことで、ユーザー一人一人と繋がることもできます。
結果として、この積み重ねがサイトの成長にも繋がっていきます。こうした手法はコンテンツマーケティングなどと呼ばれます。コンテンツによって、より自社で展開している商品やサービス、あるいは企業そのものの認知度をあげながら顧客を囲い込んでいくことのきっかけをつくることができます。
こうした手法はビジネスの相手が企業でもかまいません。つまりBtoBであってもこれは同様と言われています。
広告ではなくメディア化でこそブランディングが成立する
集客だけを考えるのであれば、「回りくどいことをしなくても広告を使えばいいから、なにもメディア化にこだわらなくてもいい」と思った人もいると思います。
実際に広告は瞬間的な集客力をあげることができます。そのため、広告を出稿し続けることができるのであれば最も効果の高い集客方法になります。そのうえ、自社サイトをメディア化するのは時間もかかります。コンテンツ作りにはそれなりに労力もその分の費用も必要です。
しかし、ブランディング、つまりファンを作ることにおいては広告だけではなかなか難しい部分があります。しっかりとしたコンテンツを発信することでサイトでコンテンツに触れたユーザーとの間によりアクティブな繋がりをつくります。
こうしたコンテンツをWEBであれば資産として持ち続けることができます。有用なコンテンツがサイト内で蓄積されることで確実にサイトの財産になり、集客の力として長い期間、効果を発揮します。そのため、成功すれば結果的には費用対効果を圧倒的に上回ります。
メディア化が注目されているのはそういった点からです。広告は広い範囲に向けてアプローチできますが、最終的なCVについてはブランディングされたサイトに劣ると考えられています。
とはいえ、もちろんメディア化して成功させることも簡単ではありません。しかし、それでも取組む価値は決して小さくありあせん。こうしたコンテンツマーケティングはインターネットが普及し始める21世紀に入ってから、この2020年まで、ずっと注目を集めている手法なのです。
先例から学ぶECサイトのメディア化パターン別3事例
メディア化としては、いろいろなパターンがあります。
- ユーザーとの距離を近づけるためのSNSもふくめて利用し親近感を演出するブログ型
- 商品に関わる情報を掘り下げたHow to・提案型メディア
- 常にCVを狙わず自社商品に限らず情報発信をして幅広い層にアプローチしていく、オウンドメディア型
それぞれが特徴を持っているので細かく分類するとキリがありませんが、概ねこの3種類に分類されます。それでは具体的な活用の例として、いくつかのサイトを実際に見てみましょう。
SNSを積極的に使って交流を深める「Final 」
finalはもともとは、大手オーディオ機器メーカーのOEMを請け負う設計製造メーカーのS’next社が2009年に立ち上げたイヤフォンブランドです。
これまでももともと業界内では知られた存在でしたが、一般的にはまったく無名でした。今ではたくさんのノウハウをつぎ込んで、50万を超える高級ヘッドフォンから数千円の普及モデルにユニークな特徴を加えたイヤフォンまでを展開して話題を呼んでいます。
その結果、finalのブランド名は日本の国内だけでなく欧州を中心とした海外の市場でも高い評価を得ています。
実際にイヤフォンの作り方を学ぶことで、仕組みを知り親近感を高めるイヤフォン組み立て体験教室などを大手家電量販店で行うなど、販売の現場での直接的コンタクトにも積極的です。
そこに加えてそれ以上にSNS、主にTwitterでの情報展開やキャンペーンを積極的に導入しているのが特徴的です。自社サイト内での情報展開は比較的シンプルです。しかし、SNSを接点にユーザーとつながりつつ、ブランドの普及を口コミで広げる戦略で確実に認知度をあげて、昨今のイヤフォンブームを盛上げる一角を担って存在感を発揮しています。
またtwitterはスマホとの相性もよく、同じくスマホの流行と関係するイヤフォンとの関連性も見えてきます。
アカウントをフォローしつつそのアカウントの投稿をリツィートするTwitter王道のキャンペーン手法から、イヤフォンにまつわる川柳、思い出募集などを早い時期から行ってフォロワーを増やしたり、実際の集客に用いたりしています。
専門性の高いブランド作りを指向しているため、大規模ではありませんが、高単価の商材を効果的に浸透させるのに有効活用しています。
一方で自社サイト内では、コンテンツマーケティング的なページ構築には十分に取組んではおらず、SNSで興味を持ったユーザーがある程度着地できるといった作りです。また、ネットショップの部分については別ドメインになるなど、未対策です。
しかし、SNSを使ったブランディングという点では、大手企業のような単発で大規模に行う事例とは一線を引きつつ、実践しやすい施策を多く仕掛けており参考になります。
それぞれ、商材に合わせて相性のいいプラットフォームや合わないプラットフォームが出てきます。たとえばファッション系であればInstagram、コミュニティ感の強いものであればfacebookという風に使い分けていくことも重要です。finalの例でいえば、すこし蘊蓄を語るのも楽しいという意味でtwitterと相性が良いということが言えます。
【参考】final
コンテンツマーケティングの王道「北欧・暮らしの道具店」
コンテンツマーケティングで成功しているECサイトの事例として必ず取り上げられるのがこのサイトです。デザインや利用される画像なども含め、トータルでイメージを作りだすことに成功しています。
しかし、セッション数や売上結果につながっているのはふんわりとしたデザインと雰囲気によるイメージワークを背景にした商品に対する情報提供の含まれたコンテンツの充実ぶりにあります。実際にインテリアとして、ツールとして生活にどう溶け込んでいくのかをしっかりとイメージさせてくれます。
How To系でよく指摘されている「しっかりと利用されるシチュエーションを想定して展開されている」ことはもちろんですが、商品一つ一つを掘り下げて想定外の利用方法も提案していたりするところには関心します。
まさに新しい発見を与えつつ、かゆいところに手が届くコンテンツを展開しているといえます。
ここでこのサイトで展開されるコンテンツにおいてもっとも注目して欲しいのは、ユーザーが商品の見た目だけでイメージを持つのではなく、具体的な使用方法を知って自分自身が使用するイメージを持つことができるようになっている点です。
こうしたことを「周りくどい」、あるいは「専門的な表現」にたよるのではなく、「シンプルにわかりやすい言葉と表現」によって展開されており、自然と購入の助けになります。
扱われる商品に対する深い知識を、利用者目線にしてわかりやすく展開されている点もとても参考になります。専門知識を持つとどうしても目線が高くなりがちです。しかし、これを一般の利用者にどう落とし込むかが自然となされており、記事が丁寧につくりこまれています。こうしたコンテンツの発信が結果に結びつきやすいのも納得です。
【参考】北欧、暮らしの道具店
求人サイトが展開するオウンドメディア「ジモコロ」
地域の求人に強い求人サイトであるe-aidemが、「オモコロ」という人気ウエブメディアの制作会社と一緒に展開する地元に転がる情報を興味深く取り上げているオウンドメディアが「ジモコロ」です。
ジモコロでは田舎暮らしの面白さや名産品などを取り上げています。基本的にはポップでくだけたネットメディアらしいテイストで、時には多いにふざけ、時にはシリアスに、とメリハリが利いています。
直接転職などに興味がなくても、カルチャー全般に取材の対象範囲が及ぶため、ジモコロ自体のファンも数多く獲得することに成功しています。
たまにはコンテンツの「作りが粗い」「オチが弱い」といったことありますがノリでカヴァーしていく勢いがあります。しかし、マスメディアでは拾えない情報を深く掘り下げており、ネットメディアとしての存在感を発揮しています。
こうしたテイストはさまざまな利用者が想定される求人サイトであるという背景があってのことですが、e-aidemの親しみ安さというブランディングにつながっていることは間違いなく、現代のネット利用者層に響くメディア展開を行うという意味ではとても参考になります。
もちろんこうした独立性の高いオウンドメディアの展開は簡単ではありません。しかし、突き抜け方などは参考になる点が多いにあります。
【参考】ジモコロ
扱う商品の専門知識を掘り下げられれば距離は近くなる
ECサイトのメディア化という事例としては、2番目にとりあげた「北欧、暮らしの道具店」が一番わかりやすいです。とにかく自社の扱う商品の専門性を深堀することが重要です。
しかし、他の2つの事例も、例えばSNSの事例であげたfinalであれば一般的ではない音響工学をTwitterで展開します。ジモコロであれば「地域というチャネル」で掘り下げています。それぞれ、専門性を発揮しており、ユーザー予備軍をユーザーの領域に引き上げていくコンテンツを発信し続けていきます。
メディアという以上は、なんらかの情報を受取手、つまり将来のお客様予備軍が手にすることが重要です。そこでECサイトがメディアとしてできること、やるべきことは、情報を深堀りしてユーザーの身近にその情報を受け取り易い形にして置くということにつきます。
専門性を提示していくことで、「このサイトは専門性がある」という信頼感を得られます。もちろんSEO的な視点も重要なことです。しかし、情報発信の基本を忘れて、数値情報に捕われた情報展開だけをしていてもブランディングにはなかなか繋がりません。また、検索順位だけは高く、流入は多くとも最終的な売上につながらないのではあまり意味もありません。もちろん、あまりに誠意の無い適当なコンテンツを読まされつづければ、ユーザーから悪評を買います。それを続ければ場合によっては炎上しかねません。
また、SEOは今、単に検索流入を伸ばすという目的で行うことがどんどん難しくなってきています。Googleとしては、検索結果はユーザビリティの高いページを表示することに意義を置いています。つまり、有用なページこそ評価を高くしたいとアルゴリズムを更新していることを忘れないようにする必要があります。そのため、テクニック的なものは、技術的に可能であればどんどん排除される傾向にあります。
そのうえで各企業のサイトは、可能な限り専門性を掘り下げて、よりユーザーに独自の情報を深く知ってもらえるようにすることが重要になってきます。
最終的にCVを狙うなら記事の質も重要
サイトの更新性、情報のフレッシュさはとても重要です。しかし、ECサイトのメディア化という意味でも、ブランディングという意味でもあまり中身のないようなブログ記事をひたすら更新しても意味がありません。
必ず、テーマを持ってそのトピックに対し関心をもって検索した読者に対して、何か発見がある、解決法があるということが重要です。
よく言われるのは、こうしたなかでもHow Toについて書かれた記事はセッションが多くなるといわれています。何か疑問をもって検索を試みるユーザーは多く、コンテンツによって解決できれば満足度も高くなるためです。
切り口は商品の選び方のポイントや実際に多い相談の事例などからそうした悩みを解決するような記事、あるいは使い方を理解してもらう、実際の導入事例など何か学べるようなものなど、いろいろな視点を考慮できます。
また、専門性の高い記事は、言い回しが難しくなったりすることも多く、読み手に伝わらないことも多くあります。4~5行で一文になるような長い文章をずっと読んでいると疲れてしまい、離脱につながります。そのため、できる限り文章は短くわかりやすく伝えることが有効です。
最近では文字だけでなく、動画のコンテンツを利用するECサイトも出て来ています。
Youtubeなどの動画共有サイトを使って集客に成功するサイトも出てきました。このことはコンテンツという概念は文字に限らないということを覚えておく必要があるということを伝えています。
とにかくコンテンツを提供することだけでなく、どのように伝えるとわかりやすいのか、商品の購入を考えるユーザーはどういった情報を求めているのかを考えてみることがこうしたコンテンツマーケティングにとって最初に重要なことであるのは間違いありません。