ECサイトの制作は細かい環境に合わせて方法を選ぼう
2020.11.13
ECサイトの制作をチャート式にして「あなたに適切なECサイトの構築方法はこれです」と知らせるサイトは少なくありません。しかし、事情はそれぞれ違うので定型的に考えるのは危険です。
それでも制作方法の選択肢を絞ることは、プロジェクトを前へ進める力になります。ここでは、ECサイトの制作についてどう考えて方法を選択するのかを中心に解説します。
CONTENS
制作手段は初期の難題
ECサイトについて、これに関連する業務の中で、関係者含め、多くの人の関心度が高くなるのは最初にどうすればいいのかということです。ここでもECサイトの制作については構築方法やその相場など何度か記事として解説しており、自然と登場頻度の高いトピックになります。
困ってしまうのは、それぞれの個別案件ごとに、また考え方によって回答は大きく変わっていくことです。
そのため、ダイレクトな回答を出すことは難しいことです。そして、この「個別案件ごとに考える」という大前提がなければ失敗する可能性は高くなるともいえます。特定の条件だけで型にはめて考えることは、簡単なことですが、見落とすことも少なくなく、それで決めてしまうことは危険です。
とはいえ、「それぞれ詳しく聞かなければ決められない」としてもある程度絞り込めるのであれば、絞り込んでいった方が効率的でもあります。答えの範囲が狭まれば、誤答をする確率は下がり、より深い回答へ導かれていけるはずです。
ケース別にECサイトの制作方法を解説するサイトは少なくありません。しかし、際限なくそうしたサイトの主張に耳を傾けることは危険なこともあります。
そうした主張を鵜呑みにして実践した結果、うまく行かなくても誰も責任を取ってくれるものではありません。それはここでも同様です。必ずしも例外はあるということも大前提です。また、選択肢の理由には必ず相反するものがあります。
まず、ECサイトをインターネット上の自動販売機と考えている場合はあまり選択肢がありません。もっとも、ECサイトを最初から自動販売機のように考えているような場合は、その後の運営で苦労するかもしれません。
人気のないところに置かれた自動販売機では、使用される機会も少なくなります。実際のところ、自動販売機の売上はおく場所に左右されます。ECサイトを作っても何もしなければ人気のないところに置かれた自動販売機と一緒です。また、ニーズのある商品をしっかりと補充しなければいけません。小遣い稼ぎ程度の感覚であればいいかもしれませんが、本格的にそれだけで利益を上げようとするのはなかなか骨が折れることです。結局のところ、運営には必ず手を入れなければECサイトとして機能しないでしょう。
基本的に、ここで紹介する候補の選出法は、その後の運営についても考えているものです。運営に十分に手をかけなければ、ECサイトはどういった構築方法を取ったとしても結局うまくいきません。ECサイトは決して何もせずに売り上げが上がるうちでの小槌ではないのです。
そうしたことを前提にしつつ、この記事が選択の助けになれば幸いです。
合わせて参考記事も事前に読んでいただくとより理解が深まりますので未読の場合はぜひお読みください。
【参考】ECサイト作成の手順はどうすすめるか〜初心者向け解説
ECサイト初心者向けに仕組みの基本を解説!構造を理解して構築や運営に生かす
ECサイト制作の現状判断による第一候補
ECサイトの制作手段を考える場合、どういった要素を考慮するか、重視するのかといったことで、取るべき手段は変わっていきます。ここでは、あまり選択の要素を詰め込まずに分けていきます。要素が増えてくれば、それだけ精度も上がりますが個別のケースも多くなっていきますので、大きな判定要素に絞ってここでは解説します。
とりあえず判定にいれる要素は「資金」「技術力」「商品の知名度や希少性」「市場の熟成度」の4点です。
資金はそのままのことを示しています。どれくらい予算を組めるのか、継続的な部分も含めて考慮したものです。技術力はECサイトの技術的な面でどれくらいの技術力をモテるのかという点です。これは資金と連動する部分も少なくありません。
「商品の知名度や希少性」は扱う商品がどういったものなのかという点です。要素として実は大きく構築方法やマーケティング戦略に関わるものです。実際のところ、大きなファクターを担うわりに数値化して考えるのは難しい項目です。この部分はあくまで一般論として押さえてください。そして「市場の熟成度」はその商品を扱う市場の状況です。商品の知名度や希少性とも連動します。
資金も技術もないけど始めるならASP
構築に予算もかけられず、運営も担当を掛け持ちしながらというスタートのECサイトは少なくないでしょう。もし、どこもかしこもECサイトの構築に予算がかけれるというのであれば、無料、あるいは安価でスタートできるカートASPの会員数はもっとずっと少ない数になっているはずです。
結局のところ、ECサイトに対しなかなか予算を避けない企業は少なくありません。結局のところ、資金がないということはそれだけで選択肢を狭めるということでもあります。もし、技術力だけはある、ということであれば別の選択肢もありますが、両方がない、手もお金もかけられないということであれば、選択はこれしかありません。
ASPを使えば、設計もECに必要な基本的なものは出来上がっており、多くの場合、テンプレートにしたがって作業をすすめることでECサイトが完成します。
扱う商品によっては本当はもっと別の選択を取った方がいいかもしれません。また、同時にモール型ECという方法もあります。その場合、利益率は考えた方がいいでしょう。取引ごとに手数料を引かれていくということは、常時利益を圧迫している状態です。Amazonや楽天市場など、有名な大手ECサイトに出品するということは、それなりに目立ちますが、その分、失う利益は最初から織り込んでおいた方がいいです。
もし、商品がそれほど知名度もないということであれば、、少し時間はかかりますがしっかりと自社でのECサイトを持ってマーケティングをして行くことの方が長い目で見るのであればプラスは大きいはずです。広告なども使って知名度をあげるブランディングに取り組むことです。これはASPに限らず、独自に自社のサイトとしてネットショップを運営する場合には共通して言えることです。
カートASPは進化を続けています。また、利用金額も随分と幅広くなってきています。月額数万円を超えるようなASPになると自由度はどんどん高くなっていきます。しかし、自由度は構築するための技術も要求していきます。
【参考】ECサイトのASP~いろいろあるけど、企業向けならどう選ぶ?
どこでも売ってる商品を価格で勝負するならモール
扱う商品によってはその市場も出来上がっており、知名度も十分にあるという場合があります。そうした中で新規にプロモーションをかけるということは、比較的予算が少なく済むと言われるWEBの世界でも非常に困難です。
そうした状況で自社で独自にECサイトを作って販路を広げるということは困難です。それこそ、他よりも安く販売できるのであれば別ですが、それさえも転売者の草刈り場になる可能性があります。
そうした商品の場合は、概して製造費や仕入れ値も明確になっており、原価の計算もしやすい傾向にあります。このような場合はモール型ECにアカウントを作成し出品するということでECとしてのチャネルを持つ方法が向いています。
予算や技術力などの話を置いても、「市場の熟成度」が高く、「商品の知名度」なども高いのであればモール型ECサイトへの出店は候補として順位が高くなっていきます。
モール型ECではプロモーションをして売り出さなければいけないような商品ではなかなか、難しい部分があります。SEO対策などもなかなか難しく、関連するキーワードで集客を増やすといったことができません。しかし、サイト自体に集客力があるので、既存の市場でよく知られた商品を販売するには手間が少なくてすみます。よくも悪くも、そのサイトの知名度と集客力の傘の下でビジネスを展開できるというわけです。
一方で覚悟しておかなければいけないこともあります。例えば同じ商品を扱う出品者がトラブルを起こした時です。いわゆる炎上ですが、そうなると直接影響がやってくるかもしれません。何事もメリットとデメリットがありますが、そのモール型ECサイトの評判はそのままその商品の評判につながっていきます。
また、価格競争が起こると厳しい状況になります。付加価値をつけることは難しいので、どうしてもその価格競争に巻き込まれることは避けられません。
【参考】Amazonで分析するモール型ECサイトのメリット・デメリット
しっかり運営していく覚悟があるならクラウドECやパッケージ
予算がある、あるいは組むつもりということで、しっかりと事業として成立させていくというのであればECサイト向けにWEBサイトの必要なパーツを揃えている、ECパッケージ、そして今ならクラウドECという選択肢があります。
クラウドECは数年前から登場し、そのメンテナンス性の高さから注目を集めている構築方法です。大義の意味ではASPでもあり、また、本来はサーバーを用意して、そこへデータを格納して利用するパッケージですが、これがクラウドサーバー上におかれている状態と理解してみるとわかりやすいです。
もっと簡単に理解するのであれば、ASPとパッケージのいいとこ取りを狙っているものといえます。ASPに自由度を持たせているという理解でも構わないかもしれません。パッケージは通常、アップデートなどの対応を自社で行わなけれないけませんが、クラウドECではそうした煩わしさが軽減されるというメリットがあります。
一方で、アップデートや機能追加などについてはパッケージより自由度という面で劣ります。サードパーティ製のものは利用できず、どうしてもベンダー側の機能追加を待たなければいけないからです。
しかし、どちらの方法も確実に言えるのはそのサイト独自のテイストや狙いなどは明確にしやすいということです。それは視覚的な部分に関わらず、動線や機能などデザインに関わる全てのことに置いてです。
グラフィック的な要素は多くの場面で利用者に印象を植え付けますが、細かいボタンの配置や、オススメ機能などそれぞれのECサイトが目指す形は違います。そうした点に対し、修正が効くことや、画面遷移をコントロールしたり、あるいは顧客情報や在庫管理など、ECサイトの中で利用するデータベースを他の作業に移行しやすいようにしたりと、運営面でアナログでやらなければいけない事柄を、すり合わせながら連携できたりする可能性も広がります。
もし、予算があり、それなりに覚悟があるのであれば、ここから始めることは悪くありません。
問題は技術力や開発期間が必要になってくるということです。前述してきた方法よりも、専門的な知識は必要ですので、外注したり、それなりの技術者がいるといった環境的要因の後押しも必要です。
外注という面ではクラウドECはメリットがあります。メンテナンスに対する労力が少なく済むからです。よく「一切かからない」とクラウドECについて喧伝するサイトもありますが、商品ページの文章や写真などのコンテンツは定期的に見直すべきですので、メンテナンスフリーという言葉は誤解を生みます。しかし、それでも圧倒的に作業は少なくすみます。
第一にサーバーや言語などのことは専門家に依頼することも多いため、コストがかかります。そうした場面でのメンテナンスフリーという点ではクラウドECは確かにコストがかかりません。
制作する段階では外部の力も必要になるでしょうが、長い目で見た場合、クラウドECは比較的コストが低く押さえられる可能性があります。それでも月額での料金が発生するということと、まだサービス自体を提供するベンダーも少なく、価格自体も傾向が見えにくいことから、選択についてのむずかしさはあるかもしれません。クラウドECをサービスで提供するにはそれなりに開発力なども必要なのでベンダーは今後もさほど増えないかもしれません。
【参考】注目のECサイト構築方法、クラウドECはASPとパッケージのいいとこ取り?!
技術者がいるならオープンソースもあり
技術者が社内にいたり、あるいは信頼のできる制作会社としっかりと関係を構築できているのであれば、オープンソースによるパッケージという選択肢も悪くありません。一番推奨されるのは「資金」はそこそこであっても、「技術力」は高いというケースです。もちろん資金で技術力をカバーするケースでも構いませんが、選択の一つとして解説していきます。
オープンソースについてもいくつか記事を書いていますので、ここでは詳しく説明は避けますが、オープンソースとは誰でも自由に使えるソフトやシステムのことです。ECではEC-CUBEなどのオープンソースパッケージがあります。
技術的な面での責任は全てサイト運営側に帰するため、メンテナンスなどをしっかりと行わなければいけません。しかし導入に関わる費用はかからないため、構築は人件費や外注費だけで済みます。もちろんそれなりに規模を求めれば予算はどんどん膨らみますが、拡張性があるということはサイトにとって確実にプラスです。
建て替えは必要になってくる
ECサイトは実は減価償却の対象になっています。一般的には大体3〜5年で古くなると言われ、リニューアルが必要になってきます。
モールであればもしかしたらこうしたことは関係ないかもしれません。運営元の大手ECサイト自体がしっかりとしていれば特にそうしたことは考えなくてもいいでしょう。いわば、この場合は旅客船の客のようなものです。しかし、その方法以外であれば、リニューアルはついてまわることと認識しておいた方が良いでしょう。
例えばASPの場合は、大規模にリニューアルをする必要は、実質的にはないかもしれません。しかし、ある程度年数が立ってくると、「もっとこうならいいのに」と思うことは出てくるかもしれません。
パッケージでは陳腐化してしまうということから逃れることが難しいです。どうしても技術が更新されるウェブの世界では、作った当初から時間が立つと古くなってしまうのです。安全面や機能的な面などを考えると、リニューアルをいかに考えて運営していくということは、スケジュールの中に組み込まざるを得ない課題と考えた方がいいかもしれません。
クラウドECについて考える場合、こうしたトピックについては完全に未知数です。まだサービスとして登場してまだ数年です。ベンダー側は大規模改修は必要ないとしていますが、実際のところはまだよくわかりません。また、どうしてもステップアップが必要で、フルスクラッチへ移行ということであればまた話は変わってきます。
結局のところ、このあたりの状況は、サイトそれぞれで変わってくるということがいえそうです。画一的に答えを出したい気持ちはわかりますが、現実はそう簡単にはいきません。
ECサイトの世界も数年すると大きく変わることは少なくありません。そうした状況に合わせていくためのタイミングがあると考えておくと割り切りもしやすいかもしれません。
当然、リニューアルを考える時には今までと違う選択肢も視野に入ってきます。新たなサービスを考えるのであれば、前段での売上から資金を強化し、フルスクラッチで全カスタマイズされたサイトを制作するということもあるいはあるかもしれません。
それでも定型的に捉えるのは危険
さて、これで制作の手段への解説は一旦終えて、最初にしていた説明に改めて戻る必要があります。あくまで、上記の話は傾向を示しているにすぎません。
実際には、ECについてのノウハウを持っていて、しっかりと話を聞いてくれる制作会社に相談して決定するのが理想的です。予算があればあるほど、その傾向は強くなります。選択肢が広がる分、慎重に考える必要があります。
こうしたECサイトを制作しようと思ったり、リニューアルしようというタイミングで相性のいい制作会社と出会えるかどうかは、その後の運営を大きく左右します。様々な選択肢が存在する中で、費用を予算いっぱいにかけるということではなく、適した方法で構築するということこそが重要です。
例えば最初はいくつかの制作会社に条件を提示して見積もりを依頼するといったことでも構いません。的確に状況を捉えてプレゼンテーションをして提案をしてくれる制作会社との付き合いはその後のECサイト運営に多いに生かされることでしょう。