フェアトレードを理解してSDGsに生かすサプライチェーンづくり
2021.12.06
SDGsが活発化したことでフェアトレードに注目が集まっています。生産者と購入者が対等に取引できるシステムの構築をめざしているフェアトレードを理解することでSDGsに生かせる部分も少なくありません。ここではフェアトレードについて解説します。
原材料や仕入れのチェックでの高いSDGs貢献度
SDGsに関連するのはたとえば食品開発や、環境関連商品を開発している企業にかぎらないということは他の記事でもお伝えしました。また社内の環境整備をすると、その後はどうすればSDGsに貢献するのかという課題が出てきます。
もちろん持続可能な社会的なシステムの改変については継続した取り組みが必要です。しかし、それだけではなくなってくるのが企業や社会のシステムの難しさです。つまり一つが完了すると次を求めます。もちろん、SDGsのようなタイプの取り組みは終わりがありません。
企業で取り組む場合、もしかしたらSDGsに対するメインになる事柄は仕入れ先や取引先の選定になってくるかもしれません。そして、これこそが国連がSDGsの取り組みに経済会を巻き込んでいる理由とも思えます。
世界的にみても、もっと小さな集落や家計などの単位で見ても経済による物理的、あるいは精神的環境への影響がもっとも大きなもの、というよりもその全てといえるかもしれません。人は何かを入手し消費し、また製造するというサイクルの中に生きています。
そこで果たす消費活動や物流に関して企業や団体が占める役割はとても大きく、個人の頑張り以上に、企業の変化の影響は確実に環境に対する影響力を持っています。SDGsで掲げる17の「持続可能な開発目標」の達成にはこの部分を欠いては実現できないでしょう。
企業が取り扱う商品や業務で使用する機材、また消費材などについて考え、その製造工程や原材料などについて考慮し、環境負荷の少ない仕入れ先を選んでいくことで確実にSDGsは前進するといえます。
しかし、ゼロから仕入れ先の取引先についてや、その商材のあらゆることを調べることは可能ではありますが、大変に時間と労力を使うことになります。また、指標を考えることも困難です。
そうした中であらゆる場面で何かを選ぶ時にその選択の基準として挙げられるものの一つが「フェアトレード」といっていいかもしれません。
フェアトレードとはどんなもの?
ではフェアトレードとはどんなものを指すのでしょうか。実際にフェアトレードの歴史自体は浅くありません。概念としては1960年代ごろに今の原型となるスタイルが確立してきたと言われています。
始まりはアメリカで経済的に厳しい状況に追い込まれやすい移民が製作した手芸品などを安定して買い上げるという慈善事業からスタートしたようです。それが製作者に対するフェアな価格での買い上げを普及させるという考え方へ変わっていったのが60年代ごろとされています。
こうした公正な取引をしていこうという活動が起こる原因は植民地支配や奴隷制度などが背景にあります。現在でもプランテーションなどでは低賃金で現地の人々が労働に従事しています。また、賃金が安いというだけでなく、労働環境は過酷で、貧困の原因を作っています。
たとえば児童労働などはそうした多くの国で行われており、その結果として子供達が学習をする機会を奪われます。それが原因となって貧困の連鎖から抜けられないという状態になっています。こうした原因は先進国にあります。現在では多くの国が独立国となりました。しかし21世紀も半ばを目指す現在でも実際には経済的な支配は企業とのつながりなどで継続されているというのも事実です。
こうした問題に対し、価格を適性にして取引しようという試みが行われ、1990年代後半には「国際フェアトレード基準」が設けられます。これはWTOなどの世界的な機構がバックアップしてフェアトレードの基準を設けたものです。農産品を中心に決められた地域での産品に対しフェアトレードが適用されると、認定を受けた生産者は取引の保証などの恩恵が受けられるようになります。フェアトレードの認証を受けるために生産者は環境の維持や人権の保護などに努めます。
このあたりから一般の人もフェアトレードという言葉を聞いたことがあるという人が増えてきます。ただし、日本ではその理解度も含めて大きく遅れをとっているのも事実です。
日本の実情としては「その製品のプロフィールよりもより安く買いたい」ということが背景にあります。これは一般消費者だけでなく、企業も当然そういった考えのもとにあります。
「正当な評価」での価格決定によって、労働が抱える貧困は改善できる可能性があります。また、遠因として、商品をよく知らずにこうした安く買いたいという心情的なものだけが残ることが普及を足止めしているという部分があります。
それでも少しづつフェアトレードの商品を扱う事業者が増えてきているため関心は高まっているということもわかります。フェアトレードの商品を販売する際はラベルをパッケージに印字することができます。消費者はそのラベルの入った商品を購入することでこのシステムに参加し生産者とこの取り組みを支援することができます。
フェアトレードの基準
フェアトレードが世界的に拡散していった背景にはしっかりとした基準を設けたところが大きいです。
「生産者が守るべき基準」「トレーダーが守る基準」「生産地域」「国際フェアトレード認定産品」などの項目で取り決めがされています。対象地域は開発途上国です。
その基準は概ね以下のような内容です。
- 最低価格の保証
- フェアトレードプレミアムによる支払い
- 長期的な取引の促進
- 生産者への商品引き渡し前の支払い制度(前払い)
- 労働従事者のための安全な労働環境
- 民主的な運営
- 差別の禁止
- 児童労働・強制労働の禁止
- 農薬などの薬品の使用量を減じる、また適性な使用
- 遺伝子組み換え産品の禁止
- 土壌・環境・生態系の保全
この内容はどれもSDGsの17の目標設定と類似点が大きいことに気づくでしょう。フェアトレード自体がSDGsより先行して取り組まれていますが、問題提起の背景は同一のところにあるといってもいいでしょう。
フェアトレードを取り入れるということはSDGsの参入と同一といってもいいかもしれません。生産者やそれに関わる労働従事者の経済的な自立と環境維持を経済の力で行おうという発想はSDGsの根幹における思想と共通したものがあります。
ただし、その一方でコマーシャルな方向に流れてしまうことも少なくないのも事実です。単純な宣伝利用になってしまってはその意味がなくなってしまいます。
こうしたことはSDGsでも同じことです。例えば、野草や昆虫などを食品にしようという試みは、食糧の確保を維持するという意味ではとても重要なことです。しかし、マスメディアなどでのSDGsの取り上げ方はある意味では今までの文化との差異を面白おかしく取り上げるだけの状態になっているともいえます。
こうしたことは本来のSDGsの意図を見失わせてしまうということにしっかりと配慮する必要があります。そしてフェアトレードも同様のことが言えます。フェアトレードであるということで完了してしまうと目標を達成できなくなる可能性もあります。
フェアトレードが抱える課題
フェアトレード自体にも課題がないというわけではありません。たとえばよく言われるのは買取の価格保証があることで生産者のモチベーションが低下してしまうということです。このあたりは制度設計の問題でもあるので、一概に無気力になっていく生産者を責めるものではありませんが、全体で考えなければならない問題です。
また普及という点では価格が消費国では同一商品を比較すると割高になるということがあります。これは先ほどでも述べたことですが、これは大きなブレーキになります。この2つの問題は実はつながっています。つまり製品がよく価格が高いということであれば納得する消費者も出てきます。また、なぜこうした価格なのかということが不透明では消費者は意図を理解したとしても手を出しにくいという問題もあります。
これらはブランディングの問題ともいえます。また、フェアトレードは買取制度があることで、公正な取引をする機会を失っているという指摘もあります。つまり、売り手側と買い手側とで取引に関する取り決めを行う場を奪っているという説です。
こうした問題はそれぞれの産品の生産者と輸入業者の間で解決の緒を見つけようと取り組んでいる産品も存在します。それらはフェアトレードの機構から離れて独自に動きをもっているケースがあります。
その代表例はコーヒーとチョコレートです。どちらもプランテーションによる奴隷労働に近い環境で製造される農産品として80年代はよく知られた存在です。そしてそれぞれフェアトレードの機構を通した販売も行われています。
これらは今、ダイレクトトレードという形で生産者と輸入国の販売者が直接つながることでお互いにWIn-WInを目指した市場形成がすすめられようとしています。そして、それでもまだ課題はつきません。
また、もう一つ課題にしなければいけないのは鉱物資源などです。農産品のような仕組みを持たないこれらの資源は過酷な労働環境、生活環境を生み出しているケースが少なくありません。例えば銅などは電気を使う我々の生活には欠かせないものですが、銅山などの公害は産出国の労働者を悩ませています。
こうした課題に対してまずは関心を持ち、解決の緒を探り出すことも消費国の責任としてSDGsでは問われているといえるでしょう。
また企業はこうしたことに解決できないまでも関心をもって模索することは今後の課題ともいえます。また、SDGsでは企業に対し長期的な視野でこうしたことを理解したサプライチェーンづくりが求められています。
フェアトレードは開発途上国を対象にしていますが、この考え方自体は先進国であっても持つ必要があります。指定地域以外では残念な状況を生んでいることもあります。それは日本国内でも同様です。