ブランディングの課題のポイントは「拡大」から「密度」へ変化している
2022.02.01
ブランディングでの課題は2010年代まではどういったイメージをユーザーに植え付けるかがそのテーマの中心でした。しかし、コミュニケーションの質の変化とともに、その印象さえもイニシアティブの多くはユーザーが持つようになり、「ブランドから何が体験できるのか」が重視されるようになってきています。ここではブランディングの課題がなぜ変化してきているのか、またどこにフォーカスすべきかについて解説します。
CONTENS
「イメージを作る」発想だった今までのブランディング
「ブランディング」の大前提としてあるのはブランドをより広く、また深く、多くの人に知ってもらうための作業であるということです。実際のブランディングの作業では多くの人が「そのブランドらしさ」を演出していく作業というイメージをもっていないでしょうか。
例えばマスメディアを使ってかっこよさを打ち出した車のCM、ゴージャズな宝石のCM、ファッショナブルな化粧品のPRなどをみるとこれらはその商品について何も語りません。ただそれぞれのブランドが演出したいイメージを打ち出し、その方向性に合わせて様々なプランを練ってイメージを構築していく作業の一端であるということが言えます。こうした作業はブランド側は全て発信者という立場に立って作業を進めていくというスタンスに立っています。
そうしたブランドのPR的な部分もブランディングの一つとしてあります。「お客さんや将来の見込み客によいイメージを持ってもらう」ということはブランディングでも重要なポイントです。目の前のお客を掴むだけでなく、将来的な顧客を作るという点においてブランディングを考えることは、マーケティングの発想の中でもとても重要な意味を持っています。
つまり、それ自体は今も決して間違いではなく、ブランディングする上での基本にあるといえます。また、こうした視点が時代遅れというわけでもありません。コンセプトやデザインなど、よりよりイメージを顧客に植え付け、「かっこいい」「好き」と思ってもらうことを目指す部分は変わることはないでしょう。そこにはブランド側が発信したいメッセージを伝えるという作業が中心にあります。
ただ、単純に「かっこいい」「おしゃれ」などを目指すでは足りなくなってきているのがブランディングの最近の事情としてあります。ブランドのコンセプトの中で謳う内容が商品やブランド目線のアピールをする時代ではなくなってきているのです。なぜなら積極的なユーザーは今、より社会全体を考え、能動的な存在としてマーケットのなかで動くようになってきたからです。こうしたユーザーは実際には一部です。しかし、そのユーザーが影響力をもっているのがこの2020年代の状況と言っていいでしょう。
「関係を作ること」へとブランディングは転換している
ブランディングはここ数年で状況がすっかり変わってきました。それには情報の伝達の仕方がかなり双方向にシフトされてきたことが背景があります。メディアのあり方がマス中心からシフトして発信者と受信者で分かれるものではなくなったことが大きな要因としてあります。
ウェブの技術が発展してきたことで、受信者は同時に発信者にもなっています。そのため、ブランドとユーザーの関係性も一方的に与えるだけでなく相互的なものに変化しつつあるのです。その結果、ブランディングのあり方も変化が求められています。
以前であれば、ブランドそのものや商品に対してのみフォーカスしていれば問題ありませんでした。しっかりと伝えたいイメージをユーザーに持ってもらい醸成していくと作業でかなりの部分を賄うことができたからです。そして、今まではそうしたやり方で十分に多くのユーザーを捉え、満足させることができたということも大きなポイントとしてあります。
ブランディング自体は恒久的に同じ行為を繰り返す、あるいはどこかで行われた典型的な手法を真似るということではなかなかうまくいきません。また、世の中の状況の変化に合わせて最適解を見つけ続ける行為でもあります。
ブランディングは「理解してもらう」というところからさらに進んで「関係を深めていく」という部分へと進んできています。
最近よくユーザーエクスペリエンスという言葉がビジネスの場面でよく出てくるようになりました。それは今まではブランド自身の掘り下げを進めて伝えればよかったという状況だったものが、ユーザーはどんな体験をそのブランドと接触したことで得るのか、ユーザー目線でしっかり考えなければブランディングは進めていけなくなったからということでもあるのです。
そこで重要なのがブランドとユーザーの接触面をしっかりと充実させることです。特に最近ではインターネット上での交流で完結することが少なくありません。直接的な接客でも人的資源が必要になりますが、その場面で与えることのできるインパクトや情報量は対面での相互性が発揮される直接の接客の快適さは強力です。
インターネットでの接客にはそうした意味で制限があり、そこで感動を与えるのは難しい状況でした。どうやっていくと一人一人のユーザーとの関係が深くなっていくのかを考えていく必要があります。
ここで課題は1対多を感じさせず、共感を共有しながらつながりを拡大していけるかどうかに移ってきているのです。そしてこの状況はますます強くなっています。多くのブランドがSNSを使いコミュニケーションを図るのはそうしたことが背景にあります。
例えば成功しているコミュニケーションに積極的なインディペンデントのブランドは積極的にLineをプラットフォームとして用いています。これがTwitterやfacebookではなくLineである理由はいくつかあります。
- より距離の近さを感じさせることができる
- 囲い込みができる
- レスポンスが早い
といったことが言われますが、それらはより親密な関係を築くことに役立つからです。また、それぞれのスタイルに合わせた接客も可能なためしっかりと運用することでよりユーザーは親近感を覚えるといいます。
憧れから自らの体験や態度表明へと嗜好は変化した
今までの指名買いするような商品、あるいはブランドに求める要素に大きなものとして「憧れ」がありました。自分がそれを持つ姿をイメージしたり、あれができるこれができると想像するというものです。
近年ではそうしたことに距離を置く人が増えてきました。これが2000年以降に成人するミレニアル世代には顕著です。またそれより上の年代でも単純な消費に飽きている、限界を感じている人は少なくないということもわかっています。
その結果、価値が「所有すること」ではなく、そこから何を感じるか、何を体験できるか、どういった時間が過ごせるのかといったことに移ってきているのです。そしてそれは単純に自分だけの快適さだけではなくなってきています。
それを象徴するように「意味がある」ということがよく会話に出てきます。本来哲学的な話をすると意味を追求することはなかなか難しいことです。しかし価値観が多様化する中で「これは意味があるだろうか」と考え、意味を見出すことに価値を置くようになってきています。所有への意味を問い、所有することで欲求を満たすことではなく、その経験や過ごした時間に価値の比重が変わってきているのです。
実際にその結果が現れている商品の例として自家用車が挙げられます。自家用車は若い世代が買わなくなったと言われています。印象論だけでいくと「若者に覇気がない」というような高齢の世代もいますし実際に無気力からくるものというふうに報道するメディアも見かけます。しかし実際には車を所有する「意味」が低下しているからです。所有しなくても交通網が発達している首都圏の住人には、維持費なども含めて負担が大きくあります。また、毎日乗ることはなく、週末のみの使用であればレンタカーやシェアカーなどの代替えの手段で十分なのです。
また人口帯として首都圏に若い世代は集まるという背景もあります。つまり、このまま若い世代に自動車を買わせることは困難なのです。
一方で態度を表明するということは重要視されるようになってきました。その商品は社会的に問題のないものなのか。もっと言えば販売元はそうしたことに関心のある企業なのかといったことを確認し、自分もその姿勢に賛同することを示すための消費を行う傾向が強くなっているのです。
そうしたことから、ブランドとしてSDGsにどうか関われるのかということを考えることは重要になってきました。実際にどういったアプローチが可能なのかはそれぞれの問題になっていきますがそうしたことに関心を示す態度がブランドにも求められています。
ブランディングと効率化
さて話をもとに戻しましょう。デジタル化、オンライン化時代のブランディングを考慮した接客が少しづつ導入が容易になってきています。なかでもボットをある程度使ったチャットを導入したWEB接客はかなり一般化してきました。
これらはマーケティングオートメーションと連動させることで無人でも、顧客情報を聞き出し、ユーザーが抱える問題点を尋ね回答を得る程度であれば簡単にできるようになってきました。そこから実際に対人対応に移行することでユーザーに安心感を与え、ウェブを平面だけの世界からコミュニケーションの入り口にまで広げることが可能になってきました。
もちろんデータベースにたくさんのパターンを集めて精度をあげていく必要がありますが、ブランディングにおいては顧客の嗜好を先回りして察知し、コミュニケーションを効率化していけるということは多くの企業に大きなチャンスをもたらします。
特にネットでのインターフェースにおいてコミュニケーションの面でブランディングが足りていなかったという場合は今後さらにこうしたテクノロジーが解決するという可能性は高くあります。またシステムに対するコストの低下も期待できる部分でしょう。
メールでのDMなども含めて、それぞれのユーザーに合わせてカスタマイズされた接客がデジタル化によってむしろ細かく大規模に実施することが可能になってきています。こうしたツールを積極的に活用して親密なユーザーとの関係を築き上げることがこれからのブランディングにはより重要視されていくことになります。