ECサイトをフルスクラッチで構築する理由が大規模ECサイトにはある
2020.11.06
フルスクラッチによるECサイト構築は多くの企業にとって、あまり適さない選択肢となっています。
世の中のECでの取引量が増えるにつれて、ECサイト構築に関わるシステムを提供するベンダーは、より便利で手軽に、かつ自由度高くシステムを構築できるようにとサービスを発展させており、ますますその流れは加速しています。その結果、フルスクラッチによるECサイト構築のメリットは低下しています。
しかし、それでもまだ、ゼロベースでの開発でECサイトを構築する企業があります。ここではそうした企業がなぜいまだにフルスクラッチでの開発を進めるのか、その理由を解説します。先端を走るECがどのように考えているのかを覗くことで将来的なビジョンに役立ててください。
CONTENS
スクラッチはIT用語で「最初から」の意味
「スクラッチ」という言葉の意味は、通常は「擦る(こする)」とか「削る」という意味です。この英語はscratchという綴りになり、DJなどがレコードを逆回転させるなどの意味の方が一般的には知られているかもしれません。また、転じて引っ掻いて傷をつけるという意味もあります。IT系のプロジェクトではこのスクラッチという言葉を「ゼロからスタートする」を表現する意味で使っています。
スポーツなどで、ハンデキャップなくゲームを開始する時などはスクラッチという言い方をします。そこから転じて、全く既存のシステムを利用せずプログラムやシステムを構築していくことを指すようになったようです。
ECサイトでも、既存のプログラムを使わず最初からサイトを作る場合にスクラッチという用語が使われます。「全てを最初から」という意味で「フルスクラッチ」という用語がECサイト構築の手段の一つとして使われ一般的に使われるようになりました。
最初からフルカスタマイズして構築するサイトについては、IT化が進み、ECサイトを作る様々な方法が選択肢としてある今、フルスクラッチへのニーズはどんどん低下しています。多くの企業のECサイトについて、フルスクラッチでサイト構築することは、事業の規模も大きくなり過ぎてしまい、他の選択肢で実現できることも多く、意味があまり無くなってきています。事情としては以下の記事も参考にしてください。
【参考】ECサイトをフルスクラッチで構築すべき理由は多くない
こちらの記事でも述べているように実際、代替えできるサービスが多くなってきており、費用も安い他の方法による進化が進んでいるます。そのため、一から始める意味は本当に少なくなっています。また参考に提示した記事にもあり、後述もしますが、導入した結果のデメリットもあります。
しかし、それでもこの方法は無くなりません。また、フルスクラッチでサイトを構築し、運営していくようなECサイトでのサービスが、EC業界を牽引しており、新たな地平を切り開いています。わざわざ予算のかかるフルスクラッチでサイトを構築するプロジェクトが無くならないのはなぜなのでしょうか。
大規模なECサイトは内製化と機能の拡張性を求めている
フルスクラッチでのECサイト開発の必要性は多くの企業にとって高くはありません。また、いろいろと現実的でもありません。しかし、IT系のサービスで先端を走る企業では多くの場合、フルスクラッチでECサイトを開発し、サービスを導入しています。
まず、フルスクラッチでサイトを構築しようというニーズの面も重要ですが、開発できる環境があるということも同じように重要です。
一般企業の多くはサイト開発に必要な技術者を確保すること自体にハードルがあります。IT自体を商品として扱う企業では逆にそうしたテクニカルな人材が多く集まることになります。そのため、社内での実装や保守作業などを行うことについて、そのハードルは低くなります。結果的にゼロベースでの開発であってもコストも下がり、検討しやすく、また、実現も可能であるということが背景にあります。
開発に必要なのは人材と資金
開発に向けた環境とは主に次の2点です。
- 技術者を十分に確保できる
- 開発予算と期間がある
この2つを確保するのはなかなか大変です。特にIT系の人材は不足しがちな現状が続いています。実際のところ、資金はあってもマンパワーの問題で開発ができないというプロジェクトは少なくありません。
少ない人数で行うとただでさえ長期間にわたるプロジェクトがさらに長引くことになります。また人材の問題は、開発後にもフルスクラッチでは必要になってきます。
これはフルスクラッチでサイトを構築する理由を考えてみるとわかります。なぜなら、既存のシステムによるルールに縛られず自由にカスタマイズをすることがフルスクラッチによるサイト構築の目的だからです。
これは自在な表向きのデザインという問題だけではなく、システム的な連携の自由度の話です。もちろんデザイン的な部分でもカスタマイズ性は高い、というよりもゼロからなので全てを作り上げていくわけですからそこは当然です。
それ以上に機能をいかに充実させるか、かつその開発スピードを求めている場合は、技術力でそれをカヴァーして対応していくのがスクラッチによって構築されたサイトのあり方です。
自由度というメリットを生かすため、カスタマイズを随時行っていくためには技術者が常に必要です。しかも1人〜2人といったレベルではなくチームでサイトのメンテナンスをしていく必要があります。
つまり、フルスクラッチでの開発を求めるのは、ECサイトの機能を「常に」拡張していくことを求めているからです。既存のサービスを利用して開発した場合、機能的なアップデートを行うためには、例えばASPであればベンダーが対応するまで待たなければいけません。
ECパッケージについても、全てのプログラムがオープンになっていなければ、やはりベンダーの対応待ちとなることは少なくないのです。新しいサービスや体制が一つのブランディングになっているIT系企業では、そう考えるとフルスクラッチで開発していくことは避けられなくなっていきます。
また、ユーザーのアクセス数も増えて販売規模も大きくなってくると既存のシステムでサイトを運営するよりもカスタマイズが容易な方がコスト削減に繋がることもあります。開発に数千万〜億を超える金額が必要になるスクラッチの方がコスト削減に繋がるというのはなんともスケールの大きな話ではありますが、実際に規模によってはそういったことが起きます。
内製化して、さらにサービスの充実を目指す
サイトが巨大であっても、足前わりの素早さを求めるには、全ての状況を把握できるスクラッチによる開発が向いています。そのため、外注せず社内で内製化していくことも合わせて必要になってきます。
内製化する理由としてはセキュリティ的なことを考える企業もあります。そういった企業ではサーバーもクラウドを利用せず、自社内で行うといった形で徹底しているケースがあります。フルスクラッチだから安全ということではありませんが、既存のサービスでもセキュリティの脆弱性をつかれて情報漏洩の原因になることは少なくありません。実際にオープンソースパッケージのEC Cubeではバージョンアップ対応をしないことで、そうした問題が発生し、情報漏洩を起こしたECサイトがありました。
いずれにしても、ECに軸足を置いてその中のサービスをスピード感を持って充実させていくには内製化されているサイトで制限なく発展させることができるフルスクラッチによるサイト構築にメリットがあるということです。
実際のところ、ECサイトをインターネット上にある自動販売機と捉えるのであれば、フルスクラッチでの投資は過剰です。商品をいわゆる「想像するようなECサイトのシステムで販売しよう」という場合にはスクラッチしたサイトの構築は今や過剰なのです。
しかし、こうしたECサイトへの企業の考え方がスクラッチでサイトを開発しようという企業は違います。こうした企業はECサイト自体がビジネスの最先端にあるという認識でいるのです。
ゼロスタートによるフルスクラッチでの開発を求める企業は以下のような部分に着目しています。こうした点を考えると、次第に選択肢はフルスクラッチに絞られていくのです。
- スピード感のあるカスタマイズと更新性
- 内製化による管理
- 提供したいサービスが特殊で既存のシステムでは対応できない
やっぱり多くの企業にとっては非現実的なスクラッチでの構築
しかし、結局のところ、フルスクラッチでのECサイト構築を目指すのはハードルがとても高いことには変わりありません。
また、実際に多くの企業では、そこまで特殊な販売形態を求めず、かつ、内製化するまでの継続的な予算編成を組むことも困難です。
最初から専用性を高めて構築するようなECサイトは、今や先進的なサービス形態を求めるようなものに限られてきます。その結果、新しい業態を生み出す最先端を走るIT企業は、自然と条件をクリアしつつ、ニーズもあることからフルスクラッチでのECサイト構築を選択しているのです。
もし、条件の揃わない状況で、少し無理をしてフルスクラッチでのサイト構築を進めた場合、かえって状況を難しくしてしまうリスクになるかもしれません。
フルスクラッチでの構築には「常にシステムを更新していく」ことが重要です。そのため、常にメンテナンスを自前で繰り返していく必要があるのです。そのため、そうしたテクニカルな人材が常駐していないと厳しくなります。
また、そうした作業を外注にする場合は、作業が常に発生していることを考えるとその費用も莫大になっていき、かえってコストが高くかかることになると考えられます。つまり、安易に外注して構築することもリスクでもあるということです。
加えて、サイトの寿命ということも考えなければいけません。スクラッチで構築し、カスタマイズもしやすいとはいえ、どうしても3〜5年程度で陳腐化していくことになります。つまりどこかのタイミングで全面的にリニューアルしなければいけないのです。そうしたことを考えると、数年置きに大きなコストが発生してくるので、そのサイクルで十分な収益が見込めるのかを考えなければいけません。
多くの大手メーカー企業がスクラッチして構築したサイトではなく、パッケージやクラウドEC、カスタマイズ性の高いASPを使っているのはそういった冷静な視点に基づいているからです。また、最近のそうした既存のシステム自体がかなり流動性の高いものに進化してきていることにも起因します。
そのため、今後もますますフルスクラッチでのサイト構築という選択肢の出番は減っていくことが予想されます。
もし、構築方法で迷っているのであれば、そうした選択の時間を削減することもコスト削減につながります。専門でサイト構築に関わる弊社のような企業であれば、要望に合わせた選択肢の提案も経験則も合わせて可能です。
ぜひ弊社にもご相談ください。