ECサイトの市場規模はまだまだ拡大中!2020年以降のEC市場調査結果を解析
2020.10.19
毎年、経済産業省はECの現状を調査し、その翌年夏にそのデータの集計結果を発表しています。
その調査では、市場規模を中心にECのトレンドや動向を国内だけでなく、国際的な情報も含めて掲載し、細かく解説しています。ここではその資料を基に5分でわかるように要所を引き出して説明します。
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BtoC市場規模280兆のうちEC化率は6.76%にすぎない
令和2年7月22日に経済産業省が、「令和元年の電子商取引の調査結果」を取りまとめたものを発表しました。この調査は毎年行われており、2020年にECの市場規模や動向を確認できる最新の資料と言えます。2021年分に関してもこの夏に発表される予定です。
経済産業省の調査結果によると、2019年の日本の全ての小売業の市場規模は280兆円ほどと考えられています。そのうちECでの取引は19兆3609億円という金額です。
この数字は全体の6.76%であり、まだ9割以上の取引がEC以外の方法をとって行われているということがわかります。この調査ではECを「電子情報を用いた全ての取引」という概念ではなく、より意味として狭いあくまでインターネット上での取引として限定したものを「ECでの取引」として調査しています。つまり、これはどれだけ日本国内でネットショップが利用されたのかということを金額ベースで示している数字になります。
大きな構成としては物販でのECが10兆515億円、サービス系が7兆1672億円です。つまり、物販とサービスが大半を占めています。これに加えてデジタル商材では2兆1422億円という数字になっています。音楽ソフトやアプリなど、ダウンロードですぐにユーザーが入手可能なデジタル商材はインターネットとの相性がよく、ECサイトの活躍の場と言えるでしょう。
どの分野もその推移は毎年増加傾向にあります。その中でも物販の伸び幅が大きいのも特徴です。サービス系ECでは旅行サイトなどの予約に関わるジャンルが高い傾向にあります。他にもチケット販売などはEC化が特に進んでいるジャンルと言っていいでしょう。
一方で予約と行っても飲食店においてはまだまだ普及が進んでいません。これは飲食サービスが必ずしも予約でのビジネスモデルを中心にしていないことも一因です。また、業務全体では仕入れや調理などの作業も関わってきます。こうした飲食店のように簡単にEC化を図れない業態があるというのも事実です。
これを読むとBtoCでの取引の大半は、EC化がまだ進んでいない業界があることもわかります。また、全体的にはEC化されず研究の余地がある部分も多いこともよくわかります。
しかし、その一方で伸び率は7.65%と少し鈍化傾向がありました。この調査が開始されてから、毎年伸び率は10%を超えていましたが、2019年には少し鈍化していました。これについては「EC市場が単純な成長市場ではなく成熟期に向かい始めており、成長曲線が緩やかになり始めている」と考える専門家もいます。
ただし、この結果は本年の結果発表で大きく変わることが予想されています。2020年は新型コロナウイルスの影響もあったので、この数字は大きく増加傾向で変化すると考えられています。2021年にその結果がまとめられるまではっきりとはわかりませんが、コロナによる急激な行動変容の影響はおそらく数字にはっきりと現れてくるでしょう。
いづれにせよ2010年代のBtoCにおけるECでの市場規模は確実に伸びており、いまだにその増加は続いています。2010年のECでの売上は7兆7880億でしたので、国内全体の消費自体は頭打ちの傾向がある中でこの10年で倍以上に増えていることになります。
また業界によってEC化の進み具合で特に進んでいるのは事務機や文具などのジャンルです。ECでの販売は41.75%を占めている状況です。他にも書籍や映像、音楽などのコンテンツ、ソフト、AV機器など電化製品が3割を超えている状況です。一方で食品は市場規模が大きく、ECでの取引は1兆8233億と金額ベースでいくと上位のジャンルですが、EC化率自体は2.89%と実際にはわずかという市場もあります。
書類手続きや整備点検の必要な自動車に関わる部門も2.88%と低い水準に留まっています。高い金額の買い物に対して直接見ないで決済することはハードルがあります。こうした商品に関しては逆に決済をネットで可能にしておくことで、購入を検討したいと考えるユーザーが「来店→帰宅し検討→オンラインショップで決済」といった導線を考えるとサービスレベルは向上するはずですが、なかなか進んでいいないのが現状といえます。
実際のところ、食品や自動車、そして不動産など、EC化が進み切らない分野については、実際にわかりやすく課題が横たわっていたりするのも事実です。例えば生鮮食品などはその場で手にとって現物を確認し、すぐ使うというニーズが高く、保存も効きません。そのため、根本的に現物を実際に確認できず、届くまでにタイムラグのあるネットショップというスタイルとの相性はよくありません。
【参考】EC化が遅れる「食品」でECサイトを成功させるポイントはブランドの確立
それでも、今後の動向次第では大きく伸びる可能性があるのも事実です。例えば衣料品はECに向かないと当初は言われ続けてきました。しかし、現在では配送システムの整備や、返品できる仕組みなどを整備して利用に抵抗のある部分を潰していくことでECで売り上げを伸ばすアパレルメーカーも少なくありません。また同じようにモール型ECサイトもアパレルには力を入れており、ファッション関連のものをECサイトを通して購入するのは一般的になりました。
そうして考えると、ユーザーのニーズをいかにインターネット上のテクノロジーに落とし込んでいくかという段階はBtoCではまだまだ続いていきそうです。
BtoBも未だ3割超
BtoBは一度の取引金額も大きいため、市場規模そのものもBtoCより大きいのが特徴です。市場規模はECだけで352兆9620億円あります。この数字は全体の31.7%です。毎年、1%前後の伸び率を見せていますが、極端な上昇傾向にあるという感じではありません。産業自体の動向も大きく反映されるため、あまり活発ではない産業でのBtoBでの取引自体も減少し、それに釣られて卸売などは減少したといったことも確認されます。
一方で情報・通信に関わるジャンルではEC化率が6割を超えて維持されています。BtoBでのEC化については、推進する流れが続いています。EC化することで利便性をあげる全銀EDIシステムなどがあり、ECに限らず、電子化するメリットは企業の方がわかりやすいという側面もBtoBの緩やかな普及を進めています。
CtoCの拡大と課題
オークションやフリーマケットなど、消費者同士が商品を流通させるCtoC市場を拡大させているのがインターネットの存在と言われています。このCtoC市場も1兆7407億円あると言われています。前年比では9.5%と未だに大きな伸びを維持している点は注目すべきです。これはBtoCのシェアを奪う側面もあり、実際に無視できない状況です。
この市場で先行していたYahoo!オークションを追い越す勢いで伸びているメルカリの存在感が大きくなっています。この市場は一度誰かが購入した中古品を中心にネット上で売買されている「二次流通」と呼ばれる市場です。メーカーなどとの関係性は必ずしも良いものではありません。しかし、ニーズは確実にあり、知名度の上昇へのトリガーとなることも少なくありません。メーカーは価格調査やブランド認知の調査などに利用しているケースもあります。
一方で、課題もあります。多くの事業者はプラットフォームの提供を謳い、トラブルへは不干渉で当事者間での解決を促しています。しかし、実際に市場の規模が上昇するのに伴ってトラブル件数も増加傾向にあります。
こうしたトラブル自体は直接、それぞれのEC事業者に影響はありませんが、あまりに当事者の自主性に任せていると、インターネットでのショッピング自体や取引した商品のイメージを傷つけてしまう可能性もあります。メーカーとしてCtoCに対処できることはありませんが、しっかりとしたルール整備をプラットフォームを提供する事業者や行政が行うことに対しての期待は少なくありません。
越境ECの伸び
経済産業省の調査では日本とアメリカ、中国での越境ECについても調査しています。世界では2020年のEC化率は推定で16.1%です。今後も拡大が予想されており、2023年には市場全体の22%をECが占めると考えられています。
ECでの取り扱い金額は中国がダントツの一位です。続いてアメリカが続いてる状況です。アメリカは中国の1/4ほどですが、これは総額での比較であり、人口とも関係があるため、アメリカもEC化がかなり進んでいることがわかります。
そのうえで2020年の世界中の越境ECの市場規模は9123億USドルと言われています。つまり日本円にするとすでに92兆円程度の市場を形成していることになります。越境ECでの伸び率は年間27%とも言われており、2027年には4兆8561億USドルという桁違いの伸びを予想しています。この金額はざっくりと日本円で500兆円に近い金額です。
一方で、現状の上位はAmazonや百度(パイドゥ)などの大手のモールが占めているということも覚えておいた方が良さそうです。上位3位は中国資本のECモールが占めています。
また日本の商品の米中両方の国からのニーズは日本から両国へのニーズを大きく上回っています。中国への取引は1兆6558億円に対し、日本から中国への購入は312億とかなり低い取引金額です。米国から日本への購入は9034億に対して日本は2863億円でした。
純粋に言葉の壁も考えられますが、日本の製品への高いニーズについては伺うことができます。また中国は米国からも2兆94億円ほどの購入があり、中国全体の消費意欲の高さが伺えます。
中国のモール型ECで越境EC事業者向けに積極的に商品をラインアップするなどの環境が整備されている側面もこうした数字につながっています。逆に言えば、中国の市場全体が高い海外製品へのニーズを持っていることも伺えます。
国内にいながら越境ECを可能にするには、モール型ECなどを活用しなければ基本的に難しいのが現状です。また、購入サービスとして、日本で海外のものを購入するようなサービスは目にしますが、逆のパターンとしてしっかりとしたプラットフォームがあれば少し状況も変わってくるかもしれません。実際にはAmazonの日本サイトでは中国からの出品者も多くいます。しかし、ユーザーにとってはトラブルが発生しやすいのも事実です。
オンラインショッピング利用者の割合は5割超
現在、国内の人口の9割までがインターネットの利用をするほど普及しています。そのため、利用者数の伸びにおいては間も無く飽和点を迎えると考えられます。人口減少も囁かれているため、今後、母数となるインターネット利用の国内利用実数は数年後には減少していくと考えられます。
この調査では、そのインターネット利用者のうち5割はECの利用を経験していることを確認しています。そのため、人口減少による利用減が起こったとしても、利用の深度による伸び代は残している状況です。今後、どうやって、ECを利用してもらえるようにユーザーを引き込めるかはEC運営者にとってますます考えていかなければいけなくなっていくでしょう。
スマホでのEC利用率は63%
インターネットでのスマートフォン利用は全体の63%を占めています。また、スマホを経由したECでの取引は物販では42.2%ですが、年々、加速度的に増加傾向にあります。2015年ではこの数字はまだ27%だったので、その増加傾向の進度の速さは理解してもらえると思います。
今後はスマートフォンでの検索順位づけの優先度も変更されていくため、ECでもその傾向はさらに拍車がかかると思われます。また、携行性に優れてるという点やアプリによるスマホ自体の機能拡張の容易さは、ユーザーだけでなく、EC事業者にとっても、しっかりとした顧客との関係を築くツールとしてその存在価値が高まっていくことも予想されます。
今まで、世代間でスマートフォンの利用率に開きがありましたが、近年ではその差が埋まりつつあります。そのため、ECに関するスマートフォンが関わる数値は押し並べて上昇していくと考えるのが良いでしょう。一方で、スマホにのみフォーカスするという時期はまだ時期尚早とも言えます。しばらくはスマホとPCでレスポンシブなサイト構築が要求される状況は続いていきそうです。
また、キャッシュレス化の波が凄まじい速度でやってきています。現在は様々な決済方法が乱立していますが、どこかのタイミングで少しづつジャンルごとに淘汰され整理されていく可能性があります。しかし、現時点ではどの決済サービスが生き残るのかを特定するのは難しい状況です。
そのため、しっかりと幅広く網を広げたいと考えてEC運営を実施していくのであれば、しばらくは様々な決済方法に対応しなければならない時期が続きそうです。
令和のECのキーワードはサブスクリプションやAI
国内ECだけで見ていくと、今後はどういった形で商品を販売していくのかという点がますます問われることになりそうです。
今まで、ECへのニーズが仕組みとあまり合わなかった生鮮食品のジャンルでは定期的に旬の食べ物を販売するサブスクリプションなどが改めて注目を集めています。
生鮮食品はECに今までうまく適応できなかったジャンルです。しかし商品が豊富に選べる時代にブランドを確立することで「何が美味しいのか」といったことを提案し、新たな体験としてユーザーに提供することで確実にファンを増やしていく手法に期待が寄せられています。また、大まかな部分は加工して届け、最終的に簡単に自宅で調理できるといった部分でもサービスが拡充しています。
ポイントとして、単純に選んでもらうということではなく、豊富な商品の海の中から、その人にあった商品を選んで、新たな経験、つまりユーザーエクスペリエンスを生むといったことがECサイトに求められるようになってきました。
また、そうしたマッチングの背景にはビッグデータをAIによって効率的に活用するといったことが可能になってきたことも背景にあります。AIのECサイトでの活用は数年前から実際に始まっており、運営に生かしたり、リピート率をあげるなどの施策でよく取り上げられるようになってきました。
実店舗を持って事業に取り組んできた場合は、それを生かす形でのEC運営や、逆にECでのみの販売からモデルルームとしての実店舗展開なども考慮する時代にますますなっていくことが予想されます。店舗とECサイトやSNSアカウントなどが連携して、それぞれがいかにシームレスに繋がり、企業や商品をプレゼンテーションできるかが、新たなユーザーエクスペリエンス創造につながっています。
こうした考え方や手法はオムニチャネルというマーケティング手法として、ここ数年急速に研究が進んでいる分野でもあります。
そうした意味ではSNSからのシームレスなECへの乗り入れなどもヴィジョンとして考えられています。しかし、SNS自体もまた流行があり、どういったプラットフォームが残っていくのかは今後も見極める必要がありそうです。
いづれにしても、EC事業自体は例えば単体で自社サイトを運営する場合の集客など、厳しい側面はそれぞれに抱えていますが、基本的に世の中の状況に関わらず、右肩上がりで伸びている状態のビジネススタイルであるということについてはまだまだ覆りそうにありません。
それゆえにこれからECに本格的に力を入れていこうという事業者にとっても可能性のある領域といえます。その基礎となるECサイトの構築や、ユーザーエクスペリエンスを高いレベルで提供するサイト運営の重要性も合わせて高まっています。
その中でも、自社サイトでの取組はブランディングを意識して、デジタルマーケティングに取り組みながら伸ばしていくことの重要性が高まっています。また、こうした手法に興味のある方はぜひ、弊社にご相談ください。